2006年03月17日

白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々

SOPHIE SCHOLL big.jpgヒトラー政権下、ドイツ国内で反ナチスを掲げ、抵抗運動を行った、実在の学生グループ“白バラ”での紅一点、ゾフィー・ショルの逮捕から大逆罪によって処刑されるまでの5日間を描いたドイツの作品。

私がこの作品の存在とゾフィーという女性のことを知ったのは、昨年の『ヒトラー 〜最期の12日間〜』鑑賞時。
ヒトラーとその第三帝国が崩壊していく様を見届けたヒトラーの個人秘書トラウドゥル・ユンゲ。
その年老いた彼女本人が映画のラストに自ら語ったゾフィー・ショルの名前と、「若かったから、知らなかったからでは済まされません」という言葉・・・。

sirobara.jpgそれまで特別なナチス信仰家でもなく、秘書としてヒトラーに従事し、終戦までナチスの犯した大罪、ホローコースト等を知らず、知らなかった自分に罪は無いと考えていたユンゲは、ある時、自分と同世代の若きゾフィー・ショルの存在を知る。そこで彼女は初めて自分を恥じたのですね。
戦後のドイツの人々にとって、殉教者であるゾフィーがいかに心の支えであったか・・・
そしてユンゲは、戦後フリージャーナリストとなり「私はヒトラーの秘書だった」という手記をしたため、それが長いときを経て、2002年に一般公開となり『ヒトラー 〜最期の12日間』という映画も制作された。
いわばゾフィーの存在が無ければ、『ヒトラー 〜最期の12日間』という作品も生まれなかったかもしれない。
そんな訳で・・・
知らないことの罪深さ、知ることの大切さを身をもって体験したユンゲのその言葉を聞いた以上、私にも知らずにはいられない、観ずにはおけない作品として、このゾフィー・ショルの物語の存在が深く心に刻まれました。

SOPHIE SCHOLL.jpg1943年のミュンヘンで、打倒ヒトラーを掲げた“白バラ”という学生によるレジスタンスに、兄と活動していたゾフィー・ショル(ユリア・イェンチ)は、2月18日、大学構内でビラまきをしていた所、兄共々ゲシュタポに連行されてしまう。
ベテランの尋問官モーアに取調べを受けるも、毅然とした態度で何とか言い逃れ釈放にこぎつけるかに思われたゾフィーだったが・・・
次第に真実が明かされ、ついには不条理な裁判で裁かれることとなるが、それでも決して自らの信念を曲げない彼女は・・・。


この映画は本当にゾフィーが捕まって処刑されるまでの顛末が作品の全てで・・・
まずは観終わって、2時間余りのこの作品が、中盤から非常に短く感じてしまった。
それは物足りない短さではなく、中盤までの尋問官モーアとゾフィーの、唯一人間どおしとしての長い尋問の時から・・・
一変してゾフィーが追い詰められていく展開の早さに圧倒され、それこそが、たった4日間で処刑されてしまう、ゾフィーの運命の皮肉、不条理さを強く物語って、映画そのものの時間が哀しくも短く凝縮されているように感じてしまうのだ。

SOPHIE SCHOLL2.jpg最初、大学構内での兄とのビラまきのシーンから、尋問官に対して恐怖を押し殺し、冷静さを装いながら無実である言い逃れをするゾフィーには、年齢相応の稚出さも感じてしまうのだが、罪を逃れられないと知った時から自分の行動を誇りとして、頑として信念を曲げないゾフィーは何者にも負けない反撃に出る。
それとは対照的に、ナチス思想の尋問官モーアが、ゾフィーの信念により自身を揺り動かされていく様が垣間見えるのも印象深い。
その後の法廷でのやり取りでは、まさにヒトラーそのものを演じるような裁判官の、言葉とは裏腹の矛盾した態度と、逆に冷静であるゾフィーたちの態度がまた対照的。全てナチスの党員である傍聴人たちの態度もゾフィーたちの信念に、ある意味打ち負かされている。
そして当然のことながら死刑が確定した後、一人になったゾフィーの叫び。
その叫びは、死刑への恐怖というより、理不尽なものに自分の命を奪われてしまう怒りと、信念を貫き通した雄叫びのようにも聴こえ、一人の若き女性をこれ程までに強く変えてしまったことに本当に驚愕する。
ヒトラーのような独裁的なサタンを創り出すと同時に、ゾフィーのような救世主を創り出してしまう歴史の重さに唖然とするし、『ヒトラー 〜最期の12日間』では、ヒトラーを一人の人間として描き、『白バラの祈り』では、ゾフィーを、まさにメシアとして描いていることも、まさに対照的で・・・印象深い。


ゾフィーが何故にここまでの信念と強さを持ちえたのか、この映画では具体的な説明は無いけれど、
彼女をそこまで昇りつめさせたものが、そんな誇り高き彼女の周囲の家族たちであったのかもしれないと思わせる、兄と同士・・たちとの関係。死刑が確定した後、ゾフィーの信念を誇りとする父と母との別れのシーン・・・。
同じ母親として涙が止まらなかったが・・・
きっと私なら「それでも何故あなたが・・・?」っと呟いてしまうだろう。

ゾフィー役のユリア・イェンチの演技も素晴らしかったが、
エンドロールで流れる、(おそらく10代の頃だろうか・・・)
実際のゾフィーのあどけない笑顔にも涙が止まらない・・・
と同時に、この映画を通じて彼女を知ったことを、彼女が信じた神と信念に感謝したい。

sirobarasophie.jpg  sirobara2_edited.JPG

posted by ラクサナ at 21:13 | Comment(5) | TrackBack(4) | 2006年 3月映画鑑賞作品
この記事へのコメント
ヒトラーの秘書だった女性がゾフィーの名を口にした話、つい最近私も知りました!「ヒトラー 〜最期の12日間」を見逃してしまってますので、是非そちらも観てみたいと思います。
この白バラを題材にした映画もあと2本『最後の5日間』と『白バラは死なず』
こちらもこの際見て見たいですよね〜
ユリア・イェンチもちょっとチェックですね、「ベルリン、僕らの革命」も観なくてはです・・ああ・・一杯あり過ぎ見たいのが。
TB&コメント有難う♪
Posted by マダムS at 2006年03月26日 00:17
あれからどうしたかなぁ〜と密かに思っていましたが、“桜が咲いた”のですよねっ♪
おめでとうございます!!

「ヒトラー 最後の12日間」といい、こちらもゾフィーの最後の5日間を描いた作品といい、
ドイツ作品として、作られたことに意義を感じますね。
共に重いけど、見応えアル作品でした。
私も映画を通じて、ゾフィーを知ったことに、感謝したいと思います。
彼女が時々窓を眺めるシーンがあったけど、窓から差し込む光に希望を託していたのでしょうか?
Posted by 紫の上 at 2006年03月26日 17:52
ラクサナさんもおっしゃるように、裁判の傍聴人たちの態度や表情の変化も見応えがありましたね。
ゾフィーに圧倒されているのはもちろんですが、このばからしい裁判に少なからずの気づきもあったのだと思います。ゾフィーは「裸の王様」の少年だったのに、周りの大人たちはその口を封じてしまった。虚しいです。
日本が描く、日本の罪を描いた作品ももっと世に出てもいいのではと思います。それ以前に今は(野球やサッカーのとき以外の)愛国心を掻き立てるほうが課題なのかな?
Posted by なでしこ at 2006年03月27日 09:58
ラクサナさん こんにちわ。トラコメありがとうございました!
ヒトラーとゾフィーを観ていると、同じ人間でありながら、こうも違ってしまうものか・・・と驚愕します。ホロコーストを知らないドイツ人も居た中で、目を見開いて真実に生きたゾフィーの存在は本当に尊いですね。
私もラクサナさんのように短く感じました。あの5日間で死を受け入れたショル兄妹の希望に満ちた最後の表情に圧倒されました。恐怖政治に屈服しないご両親の教育も大きかったのでしょうね。自分の事よりも両親の事を心配するゾフィーが切なかったです。子供がもしそうだったら理不尽さに嘆き悲しんで、あんなに毅然としていられない気がします。
Posted by meg at 2006年03月27日 17:32
[Em169]マダムSさん
「ヒトラー・・」是非ご覧下さい。
狂った思想から抜け出せない者たちの、かなり辛いシーン満載ですが、ヒトラーの人となりや、彼の秘書となったユンゲも又、時代に翻弄された共感できる若き女性であったことを知りえる見事な自国ドイツの作品です。
ひゃひゃ〜そうそう他のゾフィー作品も観たいですよね〜!また大捜索せねば!^^
「ベルリン、僕らの革命」も観たいのに、レンタルでなかなか見かけないのですよね〜〜。(^^;ヾ

[Em169]紫の上さん
ひゃひゃ、ご心配頂いてありがとうございます。桜は全開とまでは行かなかったですが・・(^^;まぁ本人楽天的に、次に望むところへ落ち着いたようです。

ゾフィーが光さす窓を眺めるシーンは印象的でしたね〜。もうその光の中を自由に歩くことはできなくても、彼女の心の中には、もっと眩い自由を、きっと感じていたことと思いたいです。

[Em169]なでしこさん
>ゾフィーは「裸の王様」の少年だったのに・・・
さすが、言いえて妙ですね!
「ヒトラー 〜最後の12日間〜」でも感じましたが・・・この第三帝国で、狂った栄華を極めた人たちは、恐ろしくも一筋縄では行かないようで・・・!
そして、おっしゃるように我が国でも・・・
決してゾフィーのような女性がいなかったとは言いがたい狂った歴史があったと思うのですが・・・作るのはステレオタイプの戦争映画ばかり目立ちますよね・・・空しいことですね〜。(−−;

[Em169]megさん
megさんのシナリオ版や映画の感想を読ませて頂いて、この映画、随分見る視点が定まったように思えます。有難うございました。
本当に私も想像以上に圧倒されました。
ヒトラーやゾフィー、そして私も同じ人間なんですよね〜恐ろしいような誇らしいような・・・。
あの両親だからこそのゾフィーだとは思いますが・・・メシアやジャンヌ・ダルクのようにならなくても、あの時代を生き抜いて闘って欲しかったと・・・やはり思ってしまいます。
Posted by ラクサナ at 2006年03月28日 01:58
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