2006年08月20日

太陽

TAIYOU.jpg

ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督が、歴史上の人物を描く4部作のうち、ヒトラーの『モレク神』、レーニンの『牡牛座』に続く3作目、昭和天皇ヒロヒトを描いた『太陽(ソンツェ)』。
ロシア本国では最優秀映画賞を受賞したり、各国で絶賛されながら、あわや日本ではお蔵入りか?っと危ぶまれた話題の公開作品。

いや〜名古屋でも今月5日から公開になったものの、モチロン単館上映で、お盆過ぎにはモーニングとレイトショーの二回上映になっていた今作。
そろそろ空いてるかな?っと思って出かけたけれど、日曜のモーニングショーだけにやはり混んでいましたね〜!
30分以上前に入ったけれど、狭い劇場内のイビツな壁際で、簡易折りたたみ椅子で首を伸ばして(汗;)の鑑賞となりました。
それでもたくさんの立ち見が出ていたから、ラッキーな方でしょうか?東京の銀座シネパトス辺りじゃ大変な混雑だったようですもんね。

人間、昭和天皇をイッセー尾形が演じるということだけど、ソクーロフ監督のロシア映画ということもあって、実は途中でいつものオネム病が出ちゃうんじゃないかと心配でしたが・・・・
いや、これは良かった、面白かったですね。
この歳で、まさかロシア映画によって昭和天皇の人間性にほのぼのとしたり、涙したりさせられるとは思いませんでした。

日いずる国の天子、人間であるのに神として崇められ、神と崇められても神のような決定権も与えられず・・・
ただただ偶像化されるのみの生身の人間、どの国の王や権力者とも違う彼の苦悩とは如何に?

「生きながらにして、神であるとはどういう気分ですか?」
んなこと聞くなっ、マッカーサー!って感じです・・・。あせあせ(飛び散る汗)晴れ
歴代の天皇とは比較できない、敗戦を期に現人神から人間宣言をする昭和天皇の劇的な数日を描きながら、そのドラマ性よりも、そんな日々の中にあるヒロヒト天皇自身の日常や所作を描いて魅せる作品。

イッセー尾形の演技が何ともいえず・・・・
天皇の口をハフハフさせるクセと、あのそっけなく「あ、そう」と言う口癖が炸裂しておりまして、
期待して見た分、冒頭の天皇の姿は、果たせるかなどうしてもイッセー尾形でしかないんですけどね。^^
けれども、観ていくにつけドンドンとあの昭和天皇にどうしても見えてくる・・・この辺りが凄いです。
口元のクセは、言いたいことが言えぬ御身にして、音を発せず声にできない言葉を発する所作なのか?
疑問にも肯定に聞こえるそっけない「あ、そう」は、一つの事に拘ってはおられぬ立場の(拘っていては身が持たないよね)所以なのか?

冒頭、皇居の待避壕での天皇の朝食のシーンから始まりますが、この辺りの室内の家具や調度品なども、かなり雰囲気が出ていて、くすんだセピアカラーの映像も過去のイメージと重厚さを感じさせる。
着せ替え人形の如くクローゼットの服を着せられるままなのに、食事を終えた天皇は口の臭いを気にしたり、侍従相手に自身の人間論をチョッピリ闘わせたり、「誰も私を愛していない、皇后と皇太子以外は・・・」などと駄々をこねたり・・・。

taiyo_photo05.jpgそして、御前会議での発言から、研究室での実に楽しげな平家蟹の生態を語る横顔から一転、戦争の始まりを思い出したかのごとく語り始めるシーンの物凄さ。
そして、後に実際の大空襲後の東京を車の窓から眺める天皇のシーンの伏線とも言える、自室での天皇の大空襲の悪夢の表現は、B29爆撃機はナマズに羽根が生えたような魚であり、焼夷弾はその魚の卵だったり・・・。
この辺りのソクーロフの素晴らしい表現力には、何故かウットリ・・・舌をまきます。

taiyou-4.jpgそしていつの間にか、時は敗戦を向かえ・・・
米軍の写真班に「チャップリンに似ている」と言われ、少し気にする天皇。
臆せず我が道を行くような天皇の振る舞いに戸惑うマッカーサー。
そんな中にも、淡々とした天皇自身の覚悟が伺える晩餐のシーン。
1人になって、ふと踊りだす天皇の姿が可笑しくも、哀しくもあり、また、やっと1人の人間として語らった時間を持てたことと、重責を少し下ろした天皇の一時の歓びを感じて、コチラも心和むのだけれど、それをそっと見つめる影もあリ・・・
やはり日本の敗戦後の行く末は、昭和天皇の人となりに掛かっていたのではないかと思わされる。
ラストに疎開先から戻ってきた皇后との再会に、また心和む思いがするけれど・・・
現実は厳しく・・・“人間宣言”をした天皇の心をまた一瞬にしてかき乱す。
先に皇后や皇太子のアルバムを愛しく眺めるシーンもあり、やはり家族には愛すべき存在であった昭和天皇。
この時の天皇を守るかのごとく、皇后を演じる桃井かおりの何をか言わんやの鋭い目つきが何とも秀逸でした。
taiyo2.jpgこの作品、ロシアでなかれば描けなかったと言われますが、日本では作れない作品と言われる点、歴史的、政治的イデオロギー等々・・・
それにも増して、こんな愛情深い天皇の人間性を描くのは、やはり日本では無理なのかもしれません。
誰もが心の奥底で人間であると知っているクセに、現人神などと奉りたて、
そんな所が、わが国の辿ってきた悲劇に繋がっている過去を思えば・・。

posted by ラクサナ at 22:41 | Comment(12) | TrackBack(11) | 2006年 8月映画鑑賞作品
この記事へのコメント
ラク様は日曜に?
私は19日から川崎のシネコンで上映が始まったので昨日やっと観てきましたよん♪東京はあまり条件の良くない劇場だったんで、助かりましたんです(笑)
まさか、笑えるシーンがあるとは知りませんでしたが、笑えない人もいるんだろうか・・(汗;) ちょっとジーンとするシーンもありで予想以上に良かったですよねぇ・・
イッセー尾形と桃井さん、見事でしたね〜
全部ちゃんと日本の役者さんを使ったソクーロフ監督にも感謝すべきでしょうか。
Posted by マダムS at 2006年08月24日 13:21
[Em1]マダムSさん
私はもうちょっと早く、1人で平日に鑑賞したかったのですが、かねてより観たい度を募らせていた旦那との日曜鑑賞となりました。(笑;)
心配した持病の(-_-)zzzも出ず、結構終始スクリーンに目が貼り付け状態の鑑賞で、ほのぼのとした笑いと、ジンワリと涙するシーンの連続に、私も予想をはるかに上回る感想を持ちました。
本当に監督の見事なキャスティングにも唸らされますよね!
Posted by ラクサナ at 2006年08月24日 17:21
こんばんは。
銀座シネパトスはごった返しておりました。
電車の音が天井から響いてくるんですが、戦時中っぽいカンジでそれもまたよし。?
ヒロヒトさんのご愛敬には微笑ましいを通りこして泣けてくるばかりでした。
ソクーロフの映像の美しさは予想していましたが、こんなふうにユーモラスな空気を描いてくれるとは意外で感動ヒトシオ。
空襲シーンは不謹慎ながら、私もウットリ。
Posted by かえる at 2006年08月25日 01:06
[Em1]かえるさん
こんばんは☆
やはり混み具合は相当なものでしたでしょうか・・・ご苦労様でした。
電車の音が天井からだと、地下壕の雰囲気も味わえそうですよね?^^
私もまさか涙ぐむとは思っていなかったので、目から鱗と涙が一緒に出た気がします。
空襲シーンの描き方、本当に素晴らしかったですね!写真撮影の鶴の使い方も絶妙でありました。
Posted by ラクサナ at 2006年08月26日 01:37
さすがラクサナさん、いい作品はキチンとおさえてますね。
イッセー尾形が演じる昭和天皇のお姿が、(アタリマエだけど)ぱっと見はそんなに似ていないのだけど、だんだんとホンモノに見えてくるのが不思議でした。
敗戦によって“天皇”という存在が変えられたのは事実であり、神から人へとヒトツの意味が変わったのだけど、日本という国を崩壊させないがために天皇制を廃止させなかった米国の考えも正しかったのではないかと思ったりもしました。
ラストで、録音技師についての言葉があったのですが、残念ながらキチンと聞き取れなかったのですよ。あとで、パンフを読んで解ったことでしたが、胸が痛みました。

なんだろ、桃井かおりが演じる皇后さまが出てきて、ヒロヒト天皇に「うんうん」と頷いて聞いている姿を見て、なぜだか涙がじわーっとにじんできちゃいました。
Posted by アンパンまん at 2006年08月28日 23:59
[Em1]アンパンまんさん
ひゃ〜あの駅裏の映画館なんですけど・・
アソコであんなに混んでいるのは初めてでした。
モーニングショーなんで、どんどん入れちゃって、立ち見がたくさんいましたよ〜!(驚;)

私も最初はどうしてもイッセー尾形なんで、大丈夫かな・・・っとも思ったんですが、本当に本物に見えてくる、彼の演技は凄かったですね〜。
日本人の国民性に疑問を持っていたであろうマッカーサーが、天皇と接することによって、結論を出したのでは・・っとこの作品を観て感じました。
何もかも知っているのに、知らずにいなくてはならない立場の天皇の姿には、笑いと哀しみを感じましたよね。
私もラストの録音技師についてのエピソードは、判りにくいものがあったように思いますが、人間宣言に対する痛みを最後に投げかけられた言葉でしたね〜。
桃井かおりの演じる皇后には本当に心和まされました。
Posted by ラクサナ at 2006年08月29日 12:21
初めまして! TBさせていただきました。
私はソクーロフ監督の作品は初めてだったのですが、
難解で政治色の強いものだったらイヤだなぁと
実は、見る前は少し警戒してました(笑)。
私の場合は、「イッセー尾形主演」というのが一番引かれた理由なのですが
舞台で見る躍動的なイッセーさんとは、ゼンゼン違ってましたねぇ。
演じてて、かなりストレス溜まったんじゃないかと心配になるぐらい。
皇后役の桃井さんとは、「二人芝居」で何度か共演されているので
さすがに抜群のコンビネーションだったと思います。
Posted by ゆっこ at 2006年08月31日 23:36
[Em1]ゆっこさん
初めまして〜!
TB&コメント有難うございます。
ロシア映画は好きなんですが、私もソクーロフ監督作はお初だし、只でさえ映画館ではよく寝るほうだし・・(爆)
しかも混んでて、居心地悪いし、ホントどうしようかと思ってたんですけど・・・(笑;)
これは面白かったですね。
おそらく初めてで最後かもしれない昭和天皇を描いた作品、普段は皇室に何の興味も無い私ですが・・・こんなにも興味深く観られたということも快挙だと思いました。
イッセー尾形の舞台って、アドリブの連発だそうですよね?
本当にさぞやこの役柄を演じるのは大変だったことかと。
桃井さんとの二人芝居、生で観てみたいです。

Posted by ラクサナ at 2006年09月01日 18:15
>それにも増して、こんな愛情深い天皇の人間性を描くのは、
>やはり日本では無理なのかもしれません。

同感です。そう考えると、みんないろんな形で天皇を食いものにしてきたんだなぁ、と気づかざるを得ません。そういえば、あの暑苦しい陸軍大臣みたいな種族が最近マスコミなどに跋扈してきているのが不快でなりませぬ。
Posted by 桜樹ルイ16世 at 2006年09月02日 08:15
[Em1]桜樹ルイ16世さん
初めまして!
コメント有難うございます。
国が暴挙に望むとき、巻き込まれるのは、一般市民のみではなく、あの時代に生まれながらにして偶像として奉り立てられてしまった天皇自身も然りと思わざるを得ませんよね。
天皇自身が、一億玉砕や本土決戦の無意味さを一番理解していたように思え、
あの最後の御前会議の描写も、邦画でこれまで見て来たものとは異なり、なかなかリアルで目を見張りましたが・・・
阿南陸相も、あの後自決したんですよね。
政治色には染まらぬ作品でしたけど、観終わると、あの時代に何がソコまで人間を追い込んで行ったか・・・やはり考えずには済まない気もしますよね。



Posted by ラクサナ at 2006年09月02日 22:43
9月になったので、気合いを入れて、やっと見てきました。
いやぁ〜、この作品を見て嬉しかったです♪
最近、あの「富田メモ」を政治利用し、天皇に対しての愛情も感じさせない日本人がいるのに対して、
苦々しく思っていた矢先なので・・・。
外国人であるロシア人監督が、ここまで愛情を持って、昭和天皇を描いてくれたことが・・・。

マッカーサーが天皇を「子供のようだ・・・」と言ったけど、あの無邪気さが日本を救い、天皇自身を救ったのでは?と思いました。
余談ですが、あの阿南陸相は、先日解任になった、阿南中国大使のお父さんだった人かしら?
イッセー尾形って、名前だけは知っていたけど、こんなに凄いとは思わなかったです。段々と昭和天皇そのものに見えてきました。
Posted by 紫の上 at 2006年09月07日 00:19
[Em1]紫の上さん
そうですよね〜実にタイムリーというか・・・
今だかつて、天皇の本音の部分など聞いたことがない気がする中で、浮上してきたあのメモ。
この作品を観た時期が重なるのも何とも皮肉な気がするのですが。
ソクーロフ監督が、1人の人間としての昭和天皇を愛情を持って描いてくれたことは嬉しい驚きですよね。
イッセー尾形あっての作品ってことも強烈に思わされますが・・。

阿南陸相は、おっしゃるように、あの問題多き元中国大使のお父さんですよね。
コチラも何とも皮肉で対象的な親子関係なんでしょうか。
Posted by ラクサナ at 2006年09月07日 13:38
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