2006年09月25日

紙屋悦子の青春

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“戦争レクイエム三部作”『TOMORROW 明日』『美しい夏キリシマ』『父と暮らせば』の黒木和雄監督が、劇作家である松田正隆が自らの母親の実話を基に書き上げた戯曲を元に映画化。
そして公開を待たず今年4月に急逝された、黒木監督の遺作となった作品。

戯曲からの映画化ということで、黒木作品では『父と暮らせば』寄りの作品になるでしょうか。
ヒロインである悦子、その兄と嫁、悦子をめぐる海軍航空隊の少尉二人の、長回しのカメラによる、殆どが紙屋家でのシーンでの会話で成り立つ作品。
淡々と物語が進んで行く中で、前半は当時の茶の間の雰囲気、絶妙な会話のやり取りに、時折は笑わされ・・・
後半は、やはり秘めたる思いがあふれ出すように泣かされ、しみじみと感動させられる、地味ながら素晴らしい作品でした。
そして私はこの作品で・・・あろうことか、古き懐かしい日本の慎ましやかな食卓に・・・随分食欲をそそられてしまいました。

戦争がテーマの作品では、派手な戦闘シーンや生き死にの描写を観るよりも、その時代にあって、慎ましくも人間らしく普通に生きる人々の姿に、より感情が揺さぶられ、心の中の何かが共鳴する思いがします。

これで監督の作品が見納めである事も残念でなりませんが、監督が描き続けた戦争と言う狂気の時代、その中での庶民の凛とした生き様は、忘れる事ができないでしょう。

ある病院の屋上の長いすに並んで座り、他愛の無い会話をする一組の老夫婦。
そして時は遡り・・・・昭和20年の鹿児島。
両親を東京の空襲で無くした紙屋悦子(原田知世)は、兄(小林薫)と、その嫁であり、女学校時代の同級生でもあった、ふさ(本上まなみ)と3人で、仲睦ましく暮らしていた。
そんなある日、兄が悦子に縁談の話を持ってくる。
それは、悦子がかねてより好意を抱いていた、兄の後輩である海軍航空隊の明石少尉(松岡俊介)の親友、永井少尉(永瀬正敏)であった。


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冒頭、(ある意味ネタバレ状態の)老夫婦の会話のシーンが延々と続き、
その意味を知りながらもアタシは、ちょっと眠気に襲われそうに・・・眠い(睡眠)(^^;

しかし、物語が過去へと遡り・・・
兼ねてより黒木監督の拘り続けた、庶民の中の戦争=卓袱台の戦争が始まる。
といっても、悦子と兄夫婦が囲む卓袱台のシーンは、残された仲の良い家族の愛情あふれる食卓。
配給の高菜と二日目の芋の煮物をおかずにしたやり取りは面白おかしく、その語らいの中での粗末な夕飯が何よりのご馳走に見える。
小林薫は勿論の事、兄嫁ふさ役の本上まなみの美しさと、如才ない演技が思いのほか見事。
ふさが語る「赤飯は赤飯らしく、らっきょうはらっきょうらしく・・」という一説が、戦時の中で耐え忍んで生きている庶民の心を代表しているようで思わず涙が・・・。もうやだ〜(悲しい顔)
好意を抱く明石から永井を紹介されると言う事、それがどういう意味を持つのかは、悦子にも兄にも周知の事実のようで、
自分の秘めたる思いを隠し、初々しくも健気な悦子を演じる原田知世の抑えた演技も、実年齢を超える素晴らしさだったと思う。
海軍士官で明日の身が分からぬ明石の、切なる思いを演じる松岡俊介に、
不器用ながら、ただ一途に悦子に思いを寄せる永井を演じる永瀬正敏も良かった。
明石と永井を迎える為、悦子とふさが用意した、おはぎの味わいも又格別。
そして、明石の別れの後に、今まで秘めてきた思いの丈をぶつけて号泣する悦子。もうやだ〜(悲しい顔)
あの号泣があったからこその、永井との人生・・・。


そして・・・
年老いた悦子が夫と病院の屋上で遠く空の向こう・・・夕陽を眺めるシーン。

戦争が終わり、長い間の夫婦としての歴史もあるのでしょうが・・・
悦子と夫にとっては、昨日のことのように想い出されであろう、戦時中の出会いの頃の想い出。

「あん山の向こうには何があるとやろう?」

年老いた二人の問いかけは・・・

人間が人間らしく生きる事ができない戦争というものの無い生活が、あの山の向こうの未来には、ちゃんと続いているのだろうか?
そんな黒木監督の問いかけのようにも思えました。



posted by ラクサナ at 18:38 | Comment(4) | TrackBack(2) | 2006年 9月映画鑑賞作品
この記事へのコメント
しみじみと良い作品でしたよね〜
物の無い時代に貴重なあずきを使って悦子さんが心をこめて作った”おはぎ”を食べることなく行ってしまった明石少尉・・食べちゃって決心が鈍るのを恐れたのでしょうかしらね〜 一緒に何かを食べるって行為はやはり人間の絆を深めるからね。
けんかしつつも和やかで平和な卓袱台のシーンがいつまでも続く事を願って作られたような作品でしたね〜〜
Posted by マダムS at 2006年09月29日 20:05
[Em114]マダムSさん

早速トラコメ有難うございました。
>”おはぎ”を食べることなく行ってしまった明石少尉・・

そうですよね〜。
食べてしまえば平静ではいられなかったかも・・。
後に永井が持って帰ったおはぎを食べた時の明石の気持ちも察するに余りありますよね。
黒木監督が描く、戦時下の庶民の卓袱台のシーンを忘れずに、平和を守り続けたいですね。
Posted by ラクサナ at 2006年09月30日 14:26
黒木和雄監督は、まだ初々しかった加賀まり子の「飛べない沈黙」で、原田知世も「時をかける少女」で知ってから、長の月日好きだったので、二人が共同して作ったこの映画はとても特別な作品になりました。原田の演技は実に心を打ちますね。
Posted by Bianca at 2006年10月05日 22:41
[Em114]Biancaさん

コメント有難うございます。
今調べてみると、黒木監督作、私は昔TVで観た『祭りの準備』辺りがお初だったような記憶ですが、加賀まり子主演の『とべない沈黙』は監督のスクリーンデビュー作になるのでしょうか。
『時をかける少女』の原田知世は、私も好きでしたね〜。
想い出すとラベンダーの香りで倒れそう・・・!^^
今回の紙屋悦子役も、まさに彼女の当たり役だったように思います。
彼女の物腰や、笑顔に、本当に心打たれました。
Posted by ラクサナ at 2006年10月06日 01:02
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