2006年10月31日

楽日

rakubi-1.jpg台北に実在する古い映画館「福和大戯院」。
その劇場が閉館すると聞いて、ツァイ・ミンリャン監督が自ら脚本を書き、「閉館する映画館の巨大なスクリーンに最もふさわしい」映画としてキン・フー監督の武侠映画の傑作『龍門客棧』の上映許可を得て、今まさに閉館しようとしている映画館への追悼と思い入れをタップリに描いた作品。

そして・・・ヴェネチア映画祭での上映時、終盤に客席で起こった二通りのハプニング。

何かの間違いか?といぶかしむ観客。がく〜(落胆した顔)
不動のスクリーンに感動して涙する観客。もうやだ〜(悲しい顔)

この客席での反応、うまくこの作品の感想を表していると思う。
(多分、寝てる観客も少しはいそう・・・ 爆;)
観賞して、どちらの気持ちも良く判る・・・。

涙こそ出なかったけれど・・・・
都こんぶのスッパイような・・・すえた古い映画館でのあの臭い・・・
台北と日本、所変われども・・・
消えゆく映画館への慕情をタップリ感じさせて貰いました。


rakubi.jpg満員の観客で賑わう劇場、誰もが息をのんでスクリーンに魅入り、漏れるため息に、湧き上がる喝采・・・
そんな過去の記憶を映し出した後、同じ作品を上映している観客もごくまばらな、雨の中に時代から取り残されたようにぼんやり佇む古い映画館。
煙草の火を求めて、一人の青年が辺りを見回すと、お爺さんと子どもがいたり、菓子を食べるのに夢中なカップルがいたり、一人豆を喰うけだるい女がいたり・・・。
今はもう熱心に魅入る観客はいないかと思うと、一人食い入るようにスクリーンを見つめるオジサンがいたり。
『龍門客棧(邦題: 残酷ドラゴン・血斗!竜門の宿)』に、かつて出演した二人の男がまた観客としてスクリーンに魅入る姿も・・・。
客席に、トイレに、階段に、現れては消えていく観客たちは、実は皆過去の亡霊なんじゃないかと思うくらい、何故か怪しく、可笑しく・・・そして懐かしい。
モギリのお姉さんは何かを気にしながらも、一人黙々と饅頭の半分をほおばり、トイレ掃除に余念がない。
そして、彼女と言葉を交わすことも無い映写技師。
そんな実体化した二人だけが互いに会い交えることも無く、映画館を閉める。

雨の中に今日消えゆく映画館は、まるで宇宙に佇む用済みのシェルターのように物悲しくて、
それでも懐かしい温かさをポッカリと浮かばせていてくれる、この瞬間は・・。

ちょっと見、自主制作映画のようにも思えてしまうこの作品。
殆ど台詞がなく、主役もストーリーも、それはただ今日消えていく映画館・・・。
まずは、こんな映画を作ること事態凄い!っと驚くしか無い。
今まで映画に対する思いを見せるいろんな作品があったと思うけれど、これ程ストレートな物は観た事が無い。
しかも、物悲しさだけかと思うと、ちょっぴりと気が抜けるバカバカしさも併せ持つし、
台詞や演技やストーリーで見るというより、五感で感じる作品なんだろうなぁ。

rakubi-2.jpg観ながらいろんな事を考えたり想い出したり・・・少しうつらうつらしたり・・・。
ラストに静止する誰も観客のいない劇場は、おそろしくでかくて、光の影が交錯する。
それとは対照的に、この映画館の正面玄関や、通路にトイレなどは、何十年も前の昭和の時代の古臭くも懐かしい情景と重なる。この部分、この臭いがたまりません。

映画は、始まってしまえば一人黙々とスクリーンに魅入るものだけれど・・・
同じシーンに笑ったり、固唾をのんだり、感嘆して思わず声をあげそうになったり、その瞬間の何ともいえない空気感を、あんな映画館で沢山の観客たちと共有するのも劇場で観る映画の醍醐味。
また、閑散とした場内で、一人映画を観る事もあるだろうし、自分自身に何かを抱え映画に集中できずに、物語り半ばで退場することもあるだろう。
そんな様々な想い出の中に、人知れず閉館していく映画館たち。
時代が変わり、映画館のスタイルが変わっていっても、決して忘れたくない映画館というものの空気感が、この作品にはいっぱい溢れていた気がして、思わず深呼吸したくなった。カチンコ
posted by ラクサナ at 19:36 | Comment(11) | TrackBack(1) | 2006年10月映画鑑賞作品
この記事へのコメント
待ってました〜
二本続けてご覧になったんですね。
<都こんぶのスッパイような・・・すえた映画館でのあの臭い・・・>
それを聞くだけで、なんだか涙ぐんで来ますよっ!
Posted by Bianca at 2006年11月06日 18:08
[Em167]Biancaさん

ひゃーすいまそん!
早く感想を完成させなきゃ・・・
っと思いながら、最近お目目がモノモライ状態で・・・!(言い訳 汗;)
ご紹介頂いたツァイ・ミンリャン作品、
さすが2作品とも只ものでは無い感じで、観賞できて良かったです♪
Posted by ラクサナ at 2006年11月07日 00:32
ものもらいお大事にー。
退屈紙一重なんですが、味わい深い映画でしたよねぇ。
私はももまんにやられました。
ラストの雨もせつなかった。
Posted by かえる at 2006年11月08日 22:32
[Em167]かえるさん

有難うございます。
ものもらいは治りかけましたが、今度は風邪気味。。。これでは映画館へは行けませんよね。(^^;

この作品、驚きました。
ここまで徹底して作る事ができるツァイ・ミンリャン監督、やはり世界に名だたる監督は違う!?
私も『残酷ドラゴン・血斗!竜門の宿』観てから望めば良かったと、ちょっと悔やまれますが・・・
映画や映画館に対する思いは、万国共通でしょうか。
日本でリメイク(できる訳ないでしょうが・・)するとしたら、どんな作品を上映するといいんでしょうね〜?^^
Posted by ラクサナ at 2006年11月09日 09:43
こちらでは12月に公開予定です。
楽しみなんですよ!

ツァイ・ミンリャン監督は「河」「Hole]を
見てるだけなんですよ。
「愛情万歳」を見たいんですが、なかなか
探せないです!

ところで「残酷ドラゴン・血斗!竜門の宿」
は伝説になってるキン・フーの最大のヒット作らしいですね。
日本でいえば、東映の時代劇のような・・・
彼の「大酔侠」は見てます。まるで昔の東映映画を思わせますよ!
ところで、「楽日」のパンフレット買われました?私がいつも行くミニシアターのオーナーが、ツァイ監督と対談してるのが、載ってるらしいのですよ!!
Posted by キウイ at 2006年11月10日 01:36
これ実は観たのですが、感想ついに書きそびれてしまいましたーー(^^;)
書いてないの一杯・・笑
あのラストの何分?まったくオドロキますよねぇ・・
消え行く劇場への思い、伝わってきましたです。あの謎の日本人の登場だけがなんとも奇妙でワカリマセン!
Posted by マダムS at 2006年11月10日 09:31
[Em167]キウイさん

私は『河』のみ観た事がありなんですが(ゲイサウナのシーンが・・何とも)・・・レンタル屋になかなか置いてないですよね、ツァイ・ミンリャン監督作って!(爆)
ついでに『残酷ドラゴン・血斗!竜門の宿』の見当たらないですねー。(・ヘ・;ゞ
この作品、来月公開なんですね?
台北の消えゆく映画館の空気を味わって来てください!

ひゃーー!
キウイさんの行きつけの劇場のオーナーが!?
パンフ買ってないんですよ〜!
二本目に『西瓜』を観たんで、ぽ〜っと帰ってきてしまいました。(残念;)

[Em167]マダムSさん

そうそう、急に「さよなら」なんて日本語が入ってきたりして、私はアレどっちが日本人なのかわかんなかったんですが・・(^^;
キョロキョロしてた青年は、実際に日本人でツァイ監督の大ファンってことから、この映画に抜擢されたみたいですね。(凄)

ラストの何分か、驚きと共に、いろいろ考えてしまいますよねぇ。
私は、昔の映画館を想い出していましたが、アソコ滅茶大きいですね!


Posted by ラクサナ at 2006年11月11日 01:24
ラクサナさん、「愛情萬歳」観ましたよ!
好きとか嫌いとか別にして、目が離せないんですよね、こういう映画。
だんだんこの殺伐さが、こちらにも伝わって、
息をひそめてたのが、最後のあの彼女の号泣で、一気に身につまされてきます。
「河」もそうだったけど、痛いくらい孤独ですよね。
ちょっと違うかもしれないけど、ギドク監督の「うつせみ」って、「愛情萬歳」をヒントに
してるんじゃないかな?って思いました。
「西瓜」と「楽日」こちらでは、8日からだけど、見れるか心配。一週間の限定なんですよ!!(涙)
Posted by キウイ at 2006年12月03日 00:36
[Em167]キウイさん

私も『愛情萬歳』観ましたよ。
なるほど〜ギドク監督の『うつせみ』!(凄)
愛情萬歳がヒントに・・・って、よく判ります。
ツァイ監督の都会の殺伐とした若者の孤独感をヒントに、韓国ならではの家族や人々の住む様々な家を対比させて、異色のラブストーリーに仕上げた感がありますよね〜『うつせみ』って!
『愛情萬歳』での、あのジャクジーバスでシャオカンが洗濯するシーンまで、うつせみのテソクの洗濯シーンとダブってくる気がしますね。(笑)
ツァイ監督の作品って、どうしようもなく殺伐とした都会のマンションが舞台の事が多くて、水のペットボトルまでもが手放せないように出てくるんですが、感情が噴出すようなラストには、参りますよね〜。

おっと、『西瓜』と『楽日』は一週間の上映なんですか!?
行きつけのミニシアターのオーナーさんがパンフに載ってる作品なのに・・・
もうちょっとやってくれてもいいですよね〜!
Posted by ラクサナ at 2006年12月04日 16:48
最終日に見てきました!
でも、ツァイ・ミンリャンって凄いですね!
あんな風に、映画館を映画にしてしまうんですから!!
あの、ももまんは切なかったですね〜^
ラクサナさんのおっしゃる五感で感じる・・・
まさにそうですよね!
トイレの臭いも、あの女の足を引きずって歩くあの靴の音も、得体の知れない妖気も、

でもこれ映画館で観なくて、DVDじゃちょっと
たいへんですね(笑)
Posted by キウイ at 2006年12月19日 00:14
[Em167]キウイさん

最終日に間に合われましたか!^^
本当に凄いですよね〜こんな作品撮りたくても撮れない監督が世界中にいっぱいいらっしゃると思いますが・・・(^^;
それができるツァイ監督に、まずは敬意を表したくなる作品ですよね。
大きな劇場ではないですが、私も昼間は寂しい繁華街の一角にある愛すべきミニシアターでの観賞だったので、何となくトイレのにおいも感じる気がして・・・(^^;非常に愛おしい気持ちで観賞できた作品でした。
DVDで観る事にならなくて本当に良かったと思いますよね。(笑)
Posted by ラクサナ at 2006年12月21日 08:49
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『楽日』 -不散-
Excerpt: 映画館への思いがとても温かい。 台北の古い映画館「福和大戯院」が閉館しようとしている。最後に上映されているのは 『龍門客桟』という1967年製作の武侠映画。邦題は『残酷ドラゴン・血斗!竜門の宿』..
Weblog: かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
Tracked: 2006-11-04 01:14
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